ある小説の読者が、それを原作とする映画を鑑賞したとき、自身が読後に抱いていたイメージと、スクリーン上の映像との間におおきな違和感をおぼえることが、しばしばある。これは映画製作上の現実的・物理的な制約のために、小説世界が十分再現されないという事情によるだけではなく、言語表現と映像表現との間に横たわる、なんらかの構造的な相違が存在しているからだと考えることができる。本研究では、実際に同一のシナリオからモデル小説の執筆とモデル映画の制作を行って比較し、それぞれの成立プロセスや、その結果を対照する実験を行った。このような研究を通じて、言語表現と映像表現との間で生まれる違和感の性質や、その成因、それぞれの長所・短所などを明らかにし、映画の表現と小説の表現において、おたがいの特性を最大に発揮する方向で創作活動に用いる方法を探る。ここで得られた知見が、これから文章や映像による創作活動をこころざす人々への参考となるものとしたい。