現在私達にとって「ウツ」という言葉、病気が極めて身近になってきた。しかし溢れ過ぎた関連情報そのものがさらに心の病を助長するのではないかと最近問題になってきている。それは「擬態うつ病」と云われている。「自分はウツではないのにウツだと思い込む」「ウツを演じること」ともいえる。
本論文は、この擬態うつ病についての正しい知識と対処法について纏めたものである。1章では、その主な症状を具体例を含めて分類整理した。2章では、まず通常のうつ病の定義、種類、メカニズムを説明した後、擬態うつ病との比較や違いについて述べた。3章では、最近擬態うつ病患者が増加している原因として、診療者側の問題、自己診断の落とし穴、情報化社会の影響、精神医学の未発達、家庭内のしつけなどの問題などに分けて考察した。4章では、擬態うつ病における危険性を整理した。抗うつ剤の過剰な服用、非医療的治療法への誤った過信、真のうつ病患者に対する診断の誤りなど実例を挙げて説明した。5章では、擬態うつ病にどう対処していくかについて結論的に述べた。もともと擬態うつ病というのは「人間の正常な反応の一つである"落ち込み"」が原因である。本人が成長するプロセスのある過程と理解し、「何もしない勇気をもつ」ということも重要であろう。そして、家族、友人の理解と愛情が最も肝心と思われる。これを読んだことが、少しでも周囲の関係ある人に対して役に立てばよいと思う。