この実験を行ったきっかけは、協和性理論の論文で行っていた偶数次倍音を含む複合音と奇数次倍音を含む複合音の二音和音の協和性を調べる実験の結果について興味を抱いたからである。従来の和声学というのは協和音程においては協和性は高いとされている。しかし、協和性理論の論文の実験では偶数次倍音を含む複合音の二音和音の協和音程は高かったのだが、奇数次倍音を含む複合音の二音和音の協和音程においては協和性が格段に低い結果となったのである。つまりこの実験の結果は従来の和声学とは異なる結果となったのである。
今回は一般的に音楽で用いられている平均律を用いて偶数次倍音を含む複合音と奇数次倍音を含む複合音の二音和音をランダムに聞き比べ、本当に従来の和声学と異なる結果になるのかということを調べるために実験を行った。被験者は8個の刺激音2個の刺激音のすべての組み合わせで作られた56ペアの刺激音をランダムに聞き、協和性を判断する。今回は、評価語に「心地よいか、不快か」を付け加えて実験を行った。
実験結果について「シェッフェの一対比較(浦の変法)」を用いて分析を行った。5人の被験者に実験を行ってもらった結果、「澄んでいるか、濁っているか」の判断は4人は同じような結果だったが、残りの1人だけ少し違う結果になった。しかし、5人とも偶5(偶数次倍音を含む複合音の音程が5半音差の刺激音)と奇5(奇数次倍音を含む複合音の音程が5半音差の刺激音)が他の音に比べて澄んでいて、偶2(偶数次倍音を含む複合音の音程が2半音差の刺激音)と奇2(奇数次倍音を含む複合音の音程が2半音差の刺激音)が濁っている結果となった。「心地よいか、不快か」の判断は5人ともそれぞれ違う結果になった。さらに「澄んでいるか、濁っているか」「心地よいか、不快か」の判断の偶数次倍音を含む複合音と奇数次倍音を含む複合音を重ね合わせた図を見るととても似ていることがわかった。このことから音程が同じであれば偶数次倍音、奇数次倍音など関係ないということがわかった。
以上の結果より音程が同じであれば協和性が似ているということがわかり、協和音程は偶数次倍音、奇数次倍音に関係なく協和性がよいということで平均律による音程においては従来の和声学と同じになった。