伊藤 敏朗 ゼミ 平成14年度卒業論文
映像作家・中野裕之の音と映像の世界
平間 絹乃

本論は、映像作家・中野裕之が主宰する企画参加による映像制作プロジェクトへの関与をふまえつつ、中野裕之の人と作品について研究し、その音と映像についてのとらえ方を本人へのインタビューもおこなって解明したものである。近年、CM、TV、ミュージッククリップなどの分野で活躍する映像作家達が続々と映画界に参入し、これまでの日本映画の固定的なイメージを覆すような作品を生み出している。ミュージックテレビ(以下MTV)界を代表する「MTV界のクロサワ」こと、中野裕之もその一人と言えるだろう。中野は、テレビ局勤務の後、ミュージック・クリップを中心に、ビデオアート作家として、日本はもちろん世界に向けての活動を続けてきた。「MTV MUSIC AWARD」6部門にノミネートされるなど、意欲的な映像制作活動を展開、さらに劇場映画に進出して大きな成功をおさめた。中野の作品で最も目を引くのは、スタイリッシュな映像とその映像に合わさる音楽のセンスの良さ、そして笑いのセンスである。彼の作品のような音響効果を持つ作品は日本では珍しく、アメリカ、ヨーロッパの一級作品に匹敵するものであるが、これも映像のクオリティーが高いからこそ音を重視したものを作ることができるということの証左である。映像と音の双方が素晴らしいとき、その双方をより楽しむことができるというのが中野の考えであり、「いつでも見る人のことを一番に考えて作る」という作風もここからきている。その結果、これまでには無かったエンタテインメント性に富んだ作品が生まれた。中野の活動は、転換期を迎えつつある日本映画に、大きな息吹をふきこむものであるといえるだろう。