演劇や映画における俳優の演技には、人の心を動かす力がある。人の感情に訴えかける演技はどうやって生まれるのか。本論は、演劇の根本とその機能について研究し、観客が共感できる演技のありかたを考察したものである。まず、歴史的研究を行い、演劇の起源が、神懸りをする共感儀式にあったこと、呪術儀式は次第に演劇となり、戯曲が生まれることで俳優が誕生し、芸術性を高めていったことなどを明らかにする。つぎに、共感を生む演技はどうして生まれるのかについて探る。心を捉える演技には、直観力・情緒・情調・想像力・観察力そして表現力を必要とし、これらを演技に結びつけることによって、より躍動感と真実性のある演技が実現すること、俳優の人生経験も演技力に必要不可欠であることなどを述べる一方、演劇の商業化は、芸術性の喪失をもたらす側面もあり、俳優が養成所における基礎的訓練を欠く傾向にあるなどの今日的問題についても指摘する。つぎに、現在、実力演技派俳優と考えられる4人の俳優をとりあげ、プロの芸術家としての俳優がどのように役作りをしているのか明らかにする。最後に、今後の演劇と俳優の進むべき道について論考する。古来、俳優は、人々の不安や未来への希望を体現し表出してきたし、これからも閉ざされた人間社会からの心の開放をめざし、ひとびとの心に共感をよびおこすという重要な立場にあると考えられる。