伊藤 敏朗 ゼミ 平成14年度卒業論文
映画監督・岩井俊二 〜その人と作品〜
篠田安世

映画監督岩井俊二は、「日本映画界の救世主」といわれ、高い評価を得ている。本研究は、岩井がそこまで強く支持される理由は何か、その作品の魅力の源泉を解明したものである。岩井作品には、さまざまな特徴が見られるが、たとえば日常の中の非現実性を、自然な物語として描ききる力量、その語り口の新鮮さ、鋭利さなどに、他者の追随を許さないものが確かに存在するように思われる。本論では、岩井作品のスタイルや出演者、スタッフなどについて検証し、「岩井美学」とも言われるセオリーに反目した独特の映像空間、映像言語の存在についてあきらかにした。また、岩井作品の魅力は、シナリオの技巧や、撮影技法の新味といったものに分析的に解明されるべきものではなく、それら全てがひとつの作品世界として結晶するとき、優れた作品となっているものだということがわかった。つぎに岩井の映像制作のための方法論が、日本映画界で初めてノンリニア編集機を使ったり、初のインターネット小説から『リリイ・シュシュのすべて』を創作するなどといった、新しいメディア技術と時代の感性を貪欲にとりいれる姿勢にあることを示す。結論として、従来の日本映画がともすれば敬遠しがちであった新しい試みを岩井が積極的に体現していったことが、彼への高い評価に結びついたものと考えられる。いまや岩井の作法が次世代作家たちから模倣され、追われる存在になっているように思われる。その意味においては岩井個人が日本映画を救っているということではなく、彼の切り拓いた新しい方法論によって形成された「うねり」ともいうべきものが、日本映画の復興に結びつきつつあるのだと考えられる。