本研究の目的は、立ち技打撃格闘技における"ワンツースリー"のフォームについて分析を行うことである。"ワンツースリー"とは、左ジャブ(第1打)、右ストレート(第2打)、左フック(第3打)の連続打撃動作のことで、ジャブ、ストレートは直線的、フックは円を描く形をとる打撃である。被験者は4名で、現行のキックボクシング経験者(以後経験者)を1名入れ、経験者とした。実験では被験者にはグローブを着用させ、人が持つミットに向かって打撃を行わせた。各被験者の打撃動作を2台のデジタルビデオカメラを使用して撮影を行った。撮影した映像データからDLT法を用いて、分析に必要な3次元座標を算出した。動作時のグローブの速度変化、肘角度の変化、グローブの軌跡等を分析項目に挙げた。
分析結果として、速度や角度変化では左ジャブや右ストレートでは大きな差がみられず、主に左フックで差があらわれた。経験者はグローブの最高速度がインパクト速度と同じで10.2m/sであった。他の被験者のインパクト速度はいずれも最高速度を下回っていた。また、第1打から第3打までの時間において経験者は他の被験者よりも約0.1秒〜0.2秒短かった。左フックの動作時の肘の角度では、経験者は左肘は64度、右肘は61度であった。他の被験者も左右の肘角度の差は少ないが、経験者の肘角度より高角度であった。グローブの軌跡では、経験者は左ジャブ、右ストレートは直線的、左フックでは円を描いていた。"フック"の動作の基本は「円を描く高速な打撃であり、左右の脇を固定し、腕を曲げたまま腰の回転で打つ」であり、最高速で的を捕らえ、両肘を曲げて打撃していた経験者は、基本に沿った打撃動作を行っていたと考えられる。以上の結果により、経験者と未経験者とでは打撃のタイミングやフォーム、打撃部位の軌道といったいくつかの基本技術の差が明らかになった。